INTERVIEW

地方で小規模かつマイナーな本屋をやるということ

柴田哲弥×山下賢二:地方で小規模かつマイナーな本屋をやるということ
「新生ガケ書房は『地域のお土産屋』」!?

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 和歌山県新宮市にある「bookcafe kuju」を訪ねた。世界遺産に登録された「熊野古道」にもほど近い、古からの景観が残る情緒あふれる街。とはいえ過疎化が進む山あいの小さな集落である。
 市街地でさえ多くの書店が消えてゆく昨今、この店のオープンは本屋という商売と文化の両面に衝撃をもたらした。しかも「book」部分を担当するのは、あの京都の人気書店「ガケ書房」。
 オープンから8ヶ月を経た現在までの道のりと今後のビジョンを、カフェを運営するNPO法人「山の学校」主宰・柴田哲弥さんと「ガケ書房」店主・山下賢二さんの両名に、DOTPLACE編集長・内沼晋太郎が伺った。

【以下からの続きです】
1/8:「コンビニもなく、夜は真っ暗。“文化の不毛な地”にブックカフェをつくる」
2/8:「本当に本好きの人が来た時に『お』っと思ってもらえる本を」
3/8:「地方ってやっぱり、モノが余っているんですよ」
4/8:「利益は半々。割るほどもないけど(笑)」

ガケ書房がホホホ座に変わります

――山下さんが新しく始められるお店の話も聞きたいんですが。

山下:名前が、ホホホ座っていうのに変わります。もともと編集企画グループとして立ち上がった集団なんですよ。僕自身の位置としては本屋というよりも地域のお土産屋としてやっていこうと思っていて。本はたまたま多いだけ、みたいな。オリジナル商品も増やしていきます。

山下賢二さん(ガケ書房店主)

山下賢二さん(ガケ書房店主)

――今のガケ書房はいつまでやられるんですか。

山下:2月の13日でおしまいです。

――ええ!? もう、すぐですね。

山下:13日の金曜日にやめます。実は始めたのも2月13日の金曜日だったんですよ(笑)。11周したら2月13日がまた金曜日になったんで、そこでおしまいです。

――おもしろい。でも、オープンする時からやめようと思っていた訳ではないですよね。最初に立ち上げられた時っていうのはずっとそこでやろうと思っていたんですよね。

山下:そうですね。思ってましたね。

――確かその前は東京で編集をやっていらしたんですよね。そのあと京都で11年お店をやられて……、どうしてまた新しいことを始めようと思ったんですか。

山下:まぁ端的に言うと、卸される側より卸す側になりたかったっていうか。今回本を作って、卸す側の旨みに気づいた(笑)。売上の分配でいうと今まで7:3、8:2の「3」と「2」やったのが「7」と「8」になるわけですよ。その請求書を発行する喜び(笑)! これがいいなぁと思って。オリジナル商品って強みにもなるし。もちろんいい商品を作らなダメですけど。発想の転換をしていこうと思って。

――でもそれって、今のガケ書房の物件でもできなくはないじゃないですか。

山下:それをするにはもう、僕にとってあそこは身の丈に合ってないんですよ。

――大きすぎるって意味ですか。

山下:大きすぎる。11年やって来ましたけど、本屋でごはんを食べるのはやっぱり楽じゃない。来年、夏葉社から出る僕のエッセイ集では、そんなこと全部書いたろ思ってるんですけど(笑)。
 だって(利益率が)2割じゃないですか。こども2人、バイト4人、家賃払ってやってて、明るい未来が見えなくなってしまって。やればやるほど。特に取次を通してやる場合、本屋ってもともと儲からん仕組みになってるし。
 いよいよ僕の身の丈じゃなくなってきたので方向転換を考えている時期に、本を作って、そっちのほうがやりたいことになってしまったんですね。本屋をやりたいよりも、本やプロダクトを作って自分たちで売って、ほかの店にも卸すっていう。そっちに自分の興味が行ってしまったので、それはもう、必然でしたね。あ、もちろんここは続けますよ。

――ここはどうなるんですか、名前は。

山下:ここは「bookcafe kuju」なんですよ。あそこに「ガケ書房 九重小学校支店」って書いてるのは単にシャレで(笑)。

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――あ、そうなんですね。ガケ書房の支店という言い方はそもそも正式じゃないんだ。でも、本店と同じで、車突っ込んでますもんね。あれ、すごいいいですよね。

柴田:そうですね、知っている人はやっぱりね。反応してくれますしね。

――今度借りる物件は古いビルの1階と2階なんでしたっけ?

山下:2階はもともとホホホ座のメンバーが営業してる店なんです。統一したんですよ、1階も2階もホホホ座にしようと。1階が新刊、2階が古本って感じでやろうと思ってます。

――品揃えの感じは変わらないんですか、本屋としては。

山下:基本のベースは変わらないんですけど、やっぱり、ちょっとずつオリジナル商品の比率が高くなるかもしれないです。

――そもそもエリア的にはどういう場所なんでしたっけ。

山下:浄土寺っていいまして、銀閣寺や法然院に行く裏道なんですよ。観光のお客さんが通る道で、インディペンデントな店も点在してるんです。今のところは表通りで家賃も高いから、そういう店は成り立たない。今回の場所はそういう店がいっぱいあるので、回るルートとしてもおもしろいし、そのビル自体にほかの店も入っているしで、今よりも魅力的になるんじゃないかと思ってますね。

――面積は今よりも狭いんですか。

山下:今の面積を半分に割って上と下に分けた感じです。

――なるほどなるほど。家賃はだいぶ安いんですか。

山下:だいぶ安いですね。大きいですよ、これは! 今のところは高いんです。いっぱいいっぱい。首まわらないです、借金で(笑)。2月13日で今の店やめて、3月で準備して、4月にオープンですね。

6/8「最近、本屋トークにアレルギーを持ってたんです」に続きます(2015年2月16日公開)

bookcafe kuju
2014年5月オープン。本格コーヒーをはじめとするドリンク類とスイーツが楽しめる。商品である本は「ガケ書房」が選書・卸を担当。同じ建物内にパン屋「むぎとし」がある。
住所:和歌山県新宮市熊野川町九重315 旧九重小学校
電話:0735-30-4862
営業:土・日 11:00~18:00
www.facebook.com/bookcafekuju
www.mugitoshi.com

構成:片田理恵
編集者、ライター。1979年生まれ。千葉県出身。出版社勤務を経て、2014年よりフリー。内沼晋太郎が講師を務める「これからの本屋講座」第一期生。房総エリアで“本屋”を目指す。
聞き手:内沼晋太郎(numabooks)
写真:長浜みづき
[2015年1月11日、bookcafe kujuにて]


PROFILEプロフィール (50音順)

山下賢二(やました・けんじ)

1972年京都生まれ。21歳の頃、友達と写真雑誌『ハイキーン』を創刊。その後、出版社の雑誌編集部勤務、古本屋店長、新刊書店勤務などを経て、2004年に「ガケ書房」をオープン。外壁にミニ・クーペが突っ込む目立つ外観と、独特の品ぞろえで全国のファンに愛された。2015年4月1日、「ガケ書房」を移転・改名し「ホホホ座」をオープン。編著として『わたしがカフェをはじめた日。』(小学館)、『ガケ書房の頃』(夏葉社)などがある。

柴田哲弥(しばた・てつや)

「bookcafe kuju」店主、NPO法人「山の学校」主宰。1984年生まれ。和歌山県出身。大学でコミュニティ政策を学び、2011年に熊野川町へIターン。廃校になった旧九重小学校を借り受け活動中。


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